回想2

日本語ラップ史に輝くクラシックとして知られるキングギドラの『空からの力』が発売されたのは1995年12月ですが、1996年1月発行の『FRONT』No.6において以下のレビューが掲載されています。

いやあ、キング・ギドラ、マジでスゴいや。ライヴなんかでその卓越したパフォーマンスをちゃんと確認していた連中でさえ、このデビュー・アルバムにはブッとぶハズ。今まで知らなかったヤツらはなおさらだ。まず、なんといっても、今、東京でもっともフォロワーの多いラッパー、ジブラの攻撃的で鋭角的なフロウがスゴイ。彼のソロ・チューン“フリースタイル・ダンジョン”は、普段のステージではあまり見られない抑えたラップが聴ける、寒気する位にクールな曲だ。一方のK・ダブ・シャインのジブラとは対照的な落ち着いたラップもいい味を出してて、特にストーリー・テラーとしての才能光るソロ・チューン“スター誕生”には思わず涙出る(聴けばわかる)。そして、オレが何よりも衝撃を受けたのは、彼らのライムの韻の踏み方なのだ。日本語ラップの大きな壁として、いかに韻を踏むかってのはデカかった。初期日本語ラッパーの変にダジャレっぽい韻の踏み方は、逆に「これじゃ韻なんか踏まない方がカッコイイや」って風潮を生んじゃってたし、確かに韻なんかあんまり気にしないでカッコイイものを作ってるヤツらもいる。だが、キング・ギドラはそこを完璧にクリアーし、全くワザとらしくなく韻を踏みつつ、ちゃんと内容の伝わるラップを聴かせてくれるのだ。正直、「次にどうやって韻を踏んでくるのか?」なんて考えながら日本語ラップを聴いたのなんて初めての経験だ。こりゃスゴい。トラックの出来も良くて、確実に歴史的な1枚になるよ、これは。(萩谷雄一)


数年前には20周年記念盤も発売されたほどの同アルバムですから、「確実に歴史的な1枚になる」という予想は完全に的中したといっていいでしょう。ハッキリとした物言いの多い萩谷さんではありますが、ここまでの断言ができるほど、当時では抜きん出たアルバムであったことは、今聴き直していてもわかります。「ライムの韻の踏み方」という聞き慣れない文句は…当時は違和感ない表現であったのかもしれません。押韻主義について決定的な役割を果たした『空からの力』が浸透する前だからこそ存在した表現、というのは少し過大視が過ぎているでしょうか。